大きなニュースとなり、そして多くの人々の関心を引くことでもあった為にそこかしこで活発な議論が行われている日本テレビによる女子アナウンサー内定取り消しならびにその内定取り消しをされた女性による訴訟について。
先ず当ブログでは世間的には大体半々くらいだろうか?意見が割れていることにいささか驚いた。当ブログの管理人もいわば採用する側の経営陣に属する者ではあるのだが、銀座のホステス経験者であることが内定取り消し事由にあたると日本テレビが判断したことが意外だ。はっきりと単刀直入に言ってしまうと、ホステス経験が内定取り消し事由であることは有り得ないことだ。裁判の判決前にそこまで断言してしまうことも批判を浴びそうだが、あくまでも既存の法律と企業倫理としてホステス経験者だから内定を取り消すなどという事態はこの日本では許されないことなのだ。いわば既に社会の倫理としても法律的にも結論が出ていることについて、今の日本ではここまで議論が分かれるものなのかと驚きつつも、それだけのん気であるということも含めて平和なのだなぁと苦笑してしまう。この問題、もし内定取り消しをされた側である原告の女性が最高裁で敗訴したら、それこそ我々全員が恐るべき判例ができたことに自分たちだけではなく子や孫の世代に企業の横暴という負の遺産を残しかねない。
日本テレビが内定辞退を原告の女性に突きつけたときの文書には「クラブでホステスとして就労していた貴殿の経歴はアナウンサーに求められる清廉性に相応しくないものである」とある。それに日本テレビ主催の「アナウンサーフォーラム」というセミナーに原告女性が参加した際に記入した自己紹介シートの職歴欄にホステス経験を記入していなかったことを虚偽の申告としているようだ。原告側としては採用選考でもないセミナーの段階のいわば企業側が勝手に審査している段階での職歴欄についてのその主張は「青田買いの場」であると批判している。それはもっともな主張だと思う。青田買いとまでは言わないが企業がセミナーの段階のシートにそこまで詳細なプロフィールを求めるのならば最初から選考会だと明確に示すべきだ。これは日本テレビ側の明確には選考とはしたくない、つまり責任は軽減したい、でも目ぼしい人材には唾をつけておきたいという大企業の傲慢な思惑が透けて見える。そもそも原告側は職歴欄に「すべてのアルバイトを記入せよ」との指示は無かったとしている。
原告側はホステスのアルバイトが「清廉性に欠ける」とする日本テレビの主張が職業差別にあたると指摘しており、更に内定から取り消しまでの8ヶ月間に渡り事実上拘束されており就職活動の機会を奪われたとしている。
清廉という言葉についてはわざわざ辞書で引くまでもなくイメージは大抵の人が同じだろう。逆に清廉ではないこととはどういうことだろうか?清廉ではないと言われて不愉快にならない人は先ずいないのではないだろうか?「あなたは清廉ではない」と日本テレビはホステスという仕事に就いている人々に真正面から言い放ったようなものだ。普段は下世話な話題を視聴率の為にはしつこいくらいに取り上げ、他人の不幸話を鬼の首を取ったかのようにニュースにしている日本テレビがどの口で清廉を語るのか?つい先日も朝の情報番組のコメンテーター・テリー伊藤が世界的に問題視されてビザ発給まで拒否されたほどの外国人ナンパ師についてまるで日本人女性の方にも非があるようなことを述べ、日本人男性がフィリピンに行って行う買春に絡めてそのナンパ師を擁護していた。救いはMC・加藤浩次は(そのナンパ師が女性の顔を自分の股間に押し付けるといったやり方を推奨しているので)日本男性はフィリピンに行っても職業売春婦たちにそんなことはしないで金銭授受の関係であるとテリー伊藤の弁を肯定しなかったことだ。ともかくそのテリー伊藤の発言について日本テレビとしては公式な謝罪をしているわけでもない。生放送で見ていたが、あの時の放送はレイプ犯罪で被害者の方が悪い理論を展開するかのごとき酷い放送内容で呆れ果てた。あれも日本テレビだ。清廉性を求める放送局が現状公共の電波で流している内容がその程度なのだ。外国人への恐怖から怯えて動けない日本人女性をナンパするクソッタレは擁護するというのに、ホステス経験という人生の糧となったであろう経験は「清廉性に欠ける」とは、そのバランス感覚が破綻している。
これは別にミジンコの主観というよりも客観的な事実として銀座のホステスを続けることは相当な難関だ。作法、時事・経済についての漏れなき知識、人を見極める能力等、並大抵の努力では銀座のホステスは務まらない。実際のところ、銀座のホステスは不採用になったことがある女性はそれこそ星の数ほどいるのだ。例えばレースクィーンだとかモデルだとか、そういった美が優先される職業の女性たちが実は銀座でアルバイトをしようとしたが採用されなかったといった話は珍しくもない。それ程までに人が選ばれる世界なのだ。生まれ持った容姿だけでは通用しないということだ。ある意味、自分の努力以上に周囲が猛烈に支えてくれる場合もある芸能界よりも厳しい。
母親の友人の店とはいえ、数ヶ月間アルバイトが継続できたこの原告がアナウンサー試験についても当初は日本テレビ側から歓迎されたかたちで内定に至ったことも頷ける。それほどまでに機転の利く受験者だったのだろう。こう言ってはなんだが学歴的にはキー局アナウンサーはなかなかにハードルが高い状況だったのだ。それでも内定に至ったということは、相当な金の卵だと人事部は判断したということだ。実際に日本テレビに限らず、学歴的には同僚たちよりも見劣りする女性アナウンサーが実務に就くとまたたくまに大活躍というケースは枚挙にいとまがない。おそらくこの原告もそういうタイプなのだろうと思える。
大前提としてこの日本では内定の段階で労働契約は締結されたものなのだ。なのでネットでよく見かけるザマーミロ的な「内定が簡単に覆る」といった論調は根本から間違い。内定取り消しはそのくらい重大なことなのだ。つまり契約が成立しているというのに契約元がその契約を無効とするには契約者、いわば甲乙の乙が犯罪などの刑事事件でも起こさない限り賠償なしに反故にはできない。今回の内定取り消しは、職業に貴賎なしとするこの日本国で日本テレビが行った重大な契約違反であり、職業差別なのだ。言うまでもなく日本ではホステスを差別して良いという法律は存在しない。感情論でホステスだから仕方がない諦めろで通してはならないことなのだ。単に女子大生が内定を取り消されたといった安易な捉え方をするべきではない。
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