実のところ、以前は武井壮が嫌いだった。芸能界で注目を集めるためとはいえ、百獣の王を自称する芸風が馬鹿みたいに見えて、そういったナンチャッテ強い男は痛いと感じたからだ。事務所に所属していないで独力で今の地位に登ってきたことやデカスロンの日本代表の経験など、尊敬すべきことは多々あったものの、シュミレーションといえば聞こえはいいが妄想で猛獣などの敵を倒す「無敗のキャリア」は望んではいないが本当の戦闘のみならず訓練でもスーパーヘビー級の化け物たちにぶっ飛ばされている身としては、彼の芸風は寒すぎて見ていられなかった。戦闘ってそんなものじゃないから・・・というツッコミが野暮なことは百も承知だが、常にどっかが折れてどっかが内出血している身としては苦笑いしか出ないネタだったのだ。
彼への考え方が変わったのは東京MXの「武井壮しらべ」という番組をテレビ欄で見たこと。放送開始から2~3か月も経ってからのことだ。テレビ欄に武井壮のトレーニングを取り上げる旨が記載されており、興味があったので録画予約したのだ。それが同番組を見始めた最初。都心での生活でどうやってシニアのオリンピック級の体力と技術を維持しているのか、普段はどんな生活をしているのかを知りたかったのだ。ミジンコが東京にいるときに苦労しているテーマが限られた時間でどこまで自分を追い込むかというとこであり、武井壮流のやり方を学びたかった。
番組を見て驚いた。ミジンコのやり方とほとんど同じだった。ただ都心の外を走り歩くのみなのだ。これが辛い。筋トレは一切なしのところも同じ。歩き、走ることのみ、しかも表参道などの舗装された路面でだ。夜の都会をひたすら歩き走ること、これは肉体的にもそうだが精神的に厳しい。やらなくても許されるようなことをひたすら反復することは、仕事に追われる社会人にはきつい。それでもやらないと衰えるし、ボディービルとはだいぶ異なる野生動物が自然に持っているような筋繊維の強さは維持できない。ボディービルではどちらかといえば筋繊維を一度断裂させてそこからの回復(超回復と呼ぶ)で更に大きくなった筋肉を手に入れる。だからこそダンベルなどで負荷を与えることが有効だ。対して特に大きく太い筋肉ではなく、実戦向き、いわゆる自分の動きに制限をなるべく加えない筋肉、つまり邪魔にならない筋肉のまま強い筋肉を手に入れることが難しい。太い腕で腕相撲に強くなろうというのではなく、細い腕で同じように腕相撲が強くなることを想像していただければ分かり易いだろうか?瞬発力を発揮する大きな部位に多い速筋ではなく、持続力のある細かい部分の部位の遅筋を鍛えることは本当にウンザリするほど地味で長い時間がかかるのだ。結局のところ、そういう地味な筋肉を手に入れるには地味な方法が有効だ。ザ・地味なトレーニングこそが地味筋肉を鍛えることには有効なのだ。ひたすら同じ動きを繰り返すのだ。どんなに疲れていようが精神的にきつかろうが続ける。1年や2年ではスタートラインだ。ずっと生活の一部として歩き、小走りをして、たまに走ることが必要になる。
武井壮はずっとその地味なトレーニングをしている。デカスロン(10種競技)という陸上競技の中でも最高峰と称される種目で日本代表になったアスリートは半端ではない。芸能活動をしつつ、ずっと超地味なトレーニングを欠かさずにこなしているのだ。この精神力は凄い。そしてそんな凄いことを人生をかけてこなしている者だからこそ、ホンモノにこだわるのだろう。とかく話題になっているアイスバケツチャレンジについて、7月半ばの段階であのチャレンジをアピールしたフレンドたちをfacebookから削除した旨を公表して一部からは叩かれていた。まだアイスバケツチャレンジが今ほど批判されている前の時点で、暗に同キャンペーンを批判した姿勢を嫌う人々は少なくなかった。まるでホワイトバンドのときと被る状況だった。チャリティーと言われてしまうとなかなか批判的にその事を語ることは憚れるものだが、それでも譲れない線というものはある。超有名人たちがALSの認知度を高めて寄付金の増加を目論むために氷水をかぶっていた企画が、なぜか氷水をかぶることだけが注目され、ALSではなく芸能人たちが注目を集めるために躍起になるその姿はなんとも酷いものだ。「武井壮しらべ」で武井壮の人となりを知るにつけ、段々とこのホンモノが好きになってきていたのでアイスバケツチャレンジへの姿勢は痛快だった。その後、同チャレンジの指名を受けたものの、ちゃんと自らの考え方を示して辞退した姿勢も見事だった。
「武井壮しらべ」は今一番好きなテレビ番組だ。製作陣とたった二人のレギュラー出演者である武井壮と宮田聡子が団結して面白い番組作りをしようという心意気が伝わって来る番組であり、テレビ番組では珍しいことだと思うのだが時折写るディレクターなどの顔まで覚えて応援したくなるのだ。キー局のバラエティー番組などでは他の出演者たちにコメントや見せ場を潰されているときも時折見かける武井壮だが、同番組では自由に好きなことができるためにその本領を発揮している。コメントがことごとく面白い上に、アタマも良いことが明らか、そしてなによりも人に愛されているのだ。かなり厳しい少年時代を過ごしていた武井壮だが、それを今は亡き兄の支えと周囲の大人たちの愛情により、曲がらないで真っ直ぐに、これでもかっていうくらいに真っ直ぐに生きて来たのだろう。「武井壮しらべ」は武井壮を褒め称える番組ではないのだが自然と垣間見える彼の人柄がそうさせてしまう。
「武井壮しらべ」で唯一の気がかりはさとちゃんこと宮田聡子の相撲だ。詳しくは→
宮田聡子さんに捧げる相撲必勝法
もうさとちゃんの代わりに出たいくらいだ。もし同番組がさとちゃんを降板させて違うモデルを採用したら番組ごと買い取ってさとちゃんを復帰させる所存。割とマジで。
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