SF作品を楽しむ大切な心構えがある。「そんなことあるわけないじゃーん!」となんでもかんでも科学的ではない表現にツッコミを入れないこと。確かにタイムトラベルは不可能かもしれないし、宇宙人が地球にやって来るには他の生命が存在するであろう惑星と地球とでは距離が遠過ぎるかもしれない。未来からサイボーグがやってくることもないかもしれないし、人工知能が人類を危険視して牙を剥くことも有り得ないのかもしれない。それでもSF作品は「あるかもしれない」と思って観ると俄然楽しめる。
映画史に残ると賞されるSF作品でも荒唐無稽な表現・演出はよくあることだ。専門家たちのアドバイスを受けながらも作品を面白くする為に科学では説明できないようなことも作品に盛り込む。それにいちいちツッコミを入れることほど野暮なことはない。「ターミネーター2」でシュワちゃん演じる旧型のT-800は遥かに高性能なボディが液体金属のT-1000に立ち向かう。弱点が無いかのように見えるT-1000との対決を観客が諦めたかといえばそうではない。シュワちゃんが最後には勝つと信じて疑わなかった。実際に旧型のT-800は強敵T-1000に対して誰もが納得のいく勝ち方をしていると思う。そりゃもう荒唐無稽な有り得ない現象が数多く起こる作品なのだ。それでも「嘘っぽくない」というべきか、もう鑑賞中は「ターミネーター2」の中で起きている非科学的な現象は全て許容できるのだ。
作品が面白いか面白くないか、これに尽きる。どんなに中二病のような設定であろうが、SFというよりは超常現象のような表現があろうが、作品自体が面白ければ次はどうなるのだろう?と気になるものだ。「安堂ロイド」は着実にこの「面白ければ許せる」というSF作品の秀作の域に入って来た。特に第8話からの盛り上がりは特筆すべきものがある。第8話、第9話ではいくつものシーンで視聴者たちを巻き込んで
奮い立つシーンがある。
キムタク演じる沫嶋黎士(まつしまれいじ)博士は東日本大震災の後で大量に発生した素粒子が「人間の思い」なのではないかと着目する。天才博士の着眼点は鋭く、人の思いを伝えるという素粒子を博士は発見する。世紀の大発見だ。この着想は非常に興味深い。現実でも説明の付かない「ひらめきの伝播」のようなことが起きる。有名な話ではある海岸で野生の猿たちが芋を海水で洗い始めたら、それほど間をおかずに数百キロは離れた海岸でも猿たちが同じように海水で芋を洗い始めたというものだ。人間の発明や発見もなぜかほぼ同時期に同じものに着眼し研究を始めてほとんど差がなくその発見を証明するなんてことがある。さすがに現代では世界的な学会やネットもあるので研究者同士が情報交換をしているからこそそういうことになることもあるだろうがそれだけでは説明がつかないことがある。なにかの発明につながることを同じ時期に世界各地で開始されていたことが後になってから分かるときがあるのだ。ミジンコの場合は半導体やソフトウェアのベンチャー企業から守秘義務契約をした上でなにかの開発の進捗状況を知ることがあるが同じような着眼点の技術が北米と欧州で同時にブレイクスルー(技術革新)間近であるときなどに素粒子かどうかは分からないが人類の進歩は同時多発的な「ひらめき」によって成されているような気がしてならない。
正直、素粒子が人の思いを伝えるという設定は面白いと思った。東日本大震災の被災地をなんとかして助けたいという思いがその素粒子発見のきっかけとなったということもなんだか納得がいく。実際に震災後にそういうなんとも例えようもない切実な空気は被災地に向けられていた。
ロイドとサプリの感情を持つアンドロイド同士の深い絆も素晴らしい。刑事モノなどでコンビ設定は定番中の定番だがこのロイドとサプリのコンビはドラマ史上でも屈指の絆だ。80年とかいう人間では難しい年数のコンビ関係という意味ではない。ロイドが世界中を敵にまわしてもサプリはロイドを修理するのだ。ロイドがどういう目的でその結果がどうなろうと必ずサプリはロイドを修理する。第9話で死地に赴こうとするロイドを騙してサプリはロイドを停止させる。その後、修理が完了したロイドが今度は一緒に行こうとするサプリを騙して停止させる。任務優先のはずのアンドロイドたちがお互いのパートナーを思いやっていた。元々は感情が無かったアンドロイドたちが感情をインストールしたことにより合理的ではないが人間としては適切な感情が育ったのだ。合理的でもなく最短距離でもない選択を人はするときがあり、またその選択によって遠回りしたり望みどおりの結果が得られなくとも人はその選択をしたことを後悔しない。「ターミネーター2」でサラ・コナーが息子ジョンとT-800との関係を見て人類と機械とが共存できる可能性を見出した。その答えがこのシーンで描かれているような気がした。
ロイドにアスラOSをインストールしたインドの教授がロイドに「未来に誇れる今を作る。それが大人の責任だ。」という言葉を授けている。このインドの教授は一切なんのコマンド(命令)もロイドに入力することなく、世界の要人たちを暗殺したあとで瀕死の状態となっていたロイドを救い修理だけをしている。本来なにかの目的があるのであればコマンドを入れておけばロイドはその通りに命令を実行したはずなのだが教授はなにもしてない。ただ教授が開発した阿修羅の名を冠する最強システムであるアスラOSをインストールしたのみ。後にロイドたちの敵側から味方に転ずる角城元(かどしろはじめ)というアンドロイドも「未来に誇れる今を作る。」という理念の下にロイドたちに協力する。ミジンコは常々「自分は清廉潔白に生きてはいないしとても褒められた生活も送っていないが未来の人に『よくもこんな酷い世界を残したなー!』と恨まれることだけは我慢がならない。だから少し頑張っている。」と若い研究者たちなどに伝えている。原発事故を起こし、景気も停滞したまま何十年、政治家は嘘ばっかり、そんな未来を残してしまうのはさすがに耐えられないので色々と取り組んではいる。要はできるのにやらないままだと居心地が悪いのだ。バラ色の未来とは言わないまでも「今よりちょっとはマシ」な世界にしておけば自分が死んだその後も期待できるということ。ドラマ「安堂ロイド」のアンドロイドたちは良く分かっているじゃないか!
第9話の最後のところでアスラ・システムがもう使えないロイドが最新鋭のオマエその端整な顔立ちはまさにアンドロイド役にピッタリだったな~でお馴染みの桐谷美鈴と対峙する。新型な上にアスラ・システムを使えるようになる液体コマンド(注射器)をまだ持っている桐谷アンドロイドに勝てるはずがないのだがそれでもロイドはひかない。って、その時にサプリが瀕死の首相をかっさらって治療。ロイド「サプリの能力を侮るな」ってキャーしびれる!でもあのシーンはきっとご覧になった方々ならば前述のように「奮い立つ」シーンだったのではないだろうか?しかもさらわれた大学3人組も処刑寸前で
正直俺は存在を忘れていた角城くんがナイスディフェンス!凄い盛り上がりだった。燃えた!自分的には半沢直樹よりも安堂ロイドの方がゴハン10杯は多めにいける。
先日、ブログのヘッダー部分に「安堂ロイドが盛り上がっている」といった旨のことを書いた。そして「楽しんでいるのは自分だけ?」と疑問を投げかけた。それに対して拍手メッセージで何通ものご賛同をいただいた。匿名にしてその一部をご紹介したい。
『安堂ロイド、わたしもひそかに毎週楽しみにしています。ミジンコさんだけじゃないですよ!!内容が、少年漫画みたいな・・・感じだなあと思って見ております。サプリ復活したシーンでは、TVに向かって「ミジンコさん、良かったですねぇ」とつぶやいてしまいました。』
『安堂ロイドおもしろいですね。回を重ねるごとに盛り上がってきてるのは確か。キムタクも彼なりに頑張っているのがいい。こういうドラマを楽しむ感性を失えば、日本もおわり。』
でしょ!!!前半、特に初回が余りにも陳腐だったのでスタートでけつまずいたのが悪かった。第1話の敵アンドロイドがトレハロースのCMの娘たちみたいな姿な上に演技力が酷過ぎたのがいけなかった。前半のロイドと刺客アンドロイドたちとの掛け合いも悪夢のようなチープな演出でとても褒められたものではなかった。しかしながら第8話からの盛り上がりは本当に絶賛に値する。SF作品としても設定の細かさやワクワク感は及第点どころかかなりの高得点をマークしている。演出や映像処理技術はアメリカの方が遥かな高みにいるとは思うが、こと設定とキャラクター作りに関しては安堂ロイドの方が勝っているとさえ思う。
問題は一部役者の役作りか。AKBの大島・・・・い、いや、もうなにも言うまい。演技力というものはそんなに簡単にどうにかなるものではないことは分かっている。悪いのはキャスティング担当者だ。とはいっても肌荒れが酷すぎるキムタクはダメとしても肌もきれいな美女アンドロイド2名、本田翼と桐谷美鈴はドラマの盛り上がりに大貢献している見事なキャスティングだった。無機質さを感じさせるくらいの美人の方がアンドロイド役向きだ。そういう意味では今の日本の女優ラインナップからしてベストな選択だ。しかもこう言ってはなんだが両名とも演技力はそれほど高い評価を受けていなかったが「安堂ロイド」を代表作筆頭に挙げるべきほど役柄を理解した良い演技を披露している。正直いって演技そこまでできたのかとおっちゃん驚いちゃったよ!い、いや嫌味じゃなくて本当に。
次の日曜で最終回を迎える「安堂ロイド」。昼間にはダイジェスト版も放送されるとか。視聴率はずっと低迷しているようだがミジンコは絶対に観る!SFに挑戦すること自体が大歓迎だった。そういうチャレンジ精神あるドラマが視聴率は苦戦しつつも最終回に至るまでに凄く盛り上がるのって名作に結構あるパターンではないだろうか?そうでもない?
いじょ!
[20回]
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