海外のハイテク企業が日本法人を設立する一連の作業を手伝うことがある。オフィス探し(取引先・取引先候補の利便性も重要)や人材獲得などに日本の事情に詳しいミジンコに手伝って欲しいと言われるのだ。海外ではIPO(上場)も目前の成功したベンチャー企業でさえも日本支社は数名からスタートするときが多い。先ずは日本支社の社長をヘッドハンティングして中核メンバーは求人広告で募集することもある。部門ごとの責任者たちを全てヘッドハンティングするに越したことはないのだが単純に支出を防ぎたい企業は少なくないのだ。特に日本の場合は募集でも極めて優秀な人材が獲得できる可能性が高く、いわばハズレの無いくじ引きをしているような感さえある。ところがこの何年間か表現は悪いが唯一のハズレくじとも言える類いの応募者たちがいる。そのことについては後述したい。
日経新聞の日曜の求人募集の小さな枠(それでも料金は1回で50万円はする!)に英文で募集広告を打つ。すると有難いことに「日本は技術者の宝庫だな!」と思えるほど優秀なエンジニアの方々からご応募いただく。その数、企業や技術分野にもよるが1日で50件ほどメールなどで職務経歴書が届く。最初の3日間くらいはそれが続くので合計で150名もの応募があるということだ。それらの応募を日本支社長が時間をかけて精査する。ミジンコは(投資している会社で取締役をやっていない限りは)その会社の人間ではないので応募の内容は見ない。いわゆる個人情報というやつなので。ただし、日本支社長や本社の人間から「これこれこういう人物をどう思うか?」は訊かれるのでアドバイスはする。
さて先ほどの「ハズレくじ」についてなのだが・・・・・
韓国企業に2年から3年在籍という経歴の応募者の数がこの10年で急増している。もうその経歴だけで皆さんもなんとなく想像がつくことだろう。日本のメーカーなど技術系企業に在籍していた者が韓国企業へと転職してほんの数年でその転職先を退職して帰国しているという事例が異様なくらい増えている為にそういった経歴の応募者がとても増えているのだ。その経歴では日本企業に戻ることは非常に難しい。その人間がいったいなぜ日本の会社を辞めて韓国企業に渡り、そして短期間で再び帰国しているのか、なんの証拠がなくともなんとなくなにをやったのかは察しがつくというものだ。そういった経歴の人物の全てが怪しいとは言い切れないことは百も承知ではあるが企業は情報漏洩という重大なリスクは避けたいのは当然のことでそんな経歴の人材を採用できるはずもないのだ。
アメリカやイスラエルのハイテク企業の日本法人だって同じことだ。「日本企業を退職直後に韓国企業に転職して数年後には帰国」という経歴には警戒する。書類審査の段階でとてもじゃないが次のプロセスには進めたくない応募者ということだ。そういういわば韓国からの帰国後の就職難民と化した元韓国企業の日本人社員たちは余りにも再就職が難しいために延々と就職活動をしている。高額な報酬に釣られて愚かな選択をした者たちだ。帰国後にはその高額報酬の残りを切り崩して生活をしているのだろう。
東芝の研究データ流出事件で逮捕された元技術者の杉田吉隆容疑者(52)が周囲にこう漏らしていたそうだ。
「大金を手にしたので、残りの人生は遊んで暮らす」
詳しくは→
「大金手にした。一生遊べる」…逮捕の元技術者(BIGLOBEニュース 読売新聞)
韓国企業に売った情報の価値によっては確かに一生暮らしていけるくらいの報酬を得られるのかもしれない。但しそれは告訴されなければだ。刑務所暮らしではその大金は使えないし、そもそも被害者である日本企業からの損害賠償請求によって財産なんて残らないことだろう。
被害を受けた東芝は容疑者の転職先であった韓国企業・SKハイニックスへの告訴へも踏み切るそうだ。東芝の虎の子であるNAND型メモリーの機密情報流出によって受けた被害は1,000億円にも及ぶとか。それだけ莫大な被害ともなると経営にも響いたであろうし、本来はNAND型メモリー開発に尽力した東芝社員たちの給与やボーナスにも影響したはずだ。酷い話だ。ちゃんと結果を出した社員たちが一人のデータ泥棒のせいで収入アップのチャンスを損なった。それに1,000億円もの被害となると東芝の雇用状況にも影響したことだろう。この被害が無ければ東芝の雇用は増えていたかもしれない。特に技術者としては功績も無かったとされ降格までされている容疑者がデータを盗んで転職することにより、他の社員たちにとんでもない被害を与えているのだ。そして吐いた台詞が「一生遊べる」だ。
残念ながらこの逮捕は氷山の一角だろう。今回の東芝の被害は数ある技術流出のほんの一例に過ぎないのだろう。今回逮捕された杉田吉隆容疑者で終わらせるべき状況ではなく、同様のデータ泥棒たちは全員逮捕されるべきだ。今回のニュースで同じことをやった者たちは戦々恐々としていることだろう。既に逃亡を図っている者たちも少なからずいるはずだ。犯した犯罪の対価は支払うべきだ。
[37回]
PR