アルジェリアにもマリにもこの十年で数を覚えていないほど渡航した。一瞬も油断できない地域だと初めて現地に到着した最初の日で学んだ。日本ではそれほど馴染み深い国名ではないアルジェリアもマリも紛争地帯にわざわざ赴くことが仕事の内の自分には馴染みの土地で妻に「行ったら離婚する宣言」を十数回は受けている。当初は自分への警護は民間の警備(軍事)会社を雇っていた。警備のアウトソーシングに不安を覚えたことと、その警備会社がいちいち自分の意向に反発するので数年後には自分が小さな民間軍事会社の株主として入った。今やその会社はとても大きくなった。つまりそういう会社が活躍する紛争地帯も要人や西側の主要拠点へのテロ予告も減るどころか増えているということ。最大手だった民間軍事会社がイラクで許されざる大事件を起こして米政府からの事実上のイラクへの進入禁止措置を受けて規模の大幅な縮小を余儀なくされた。その会社は社名も変更、もはやかつての勢いは見る影もない。たまたまできたその大会社が抜けた空白を何百社もの民間軍事会社が埋めた。悪魔的な好景気が紛争地帯にはあるということだ。今は紛争地帯は民間軍事会社なしには語れない。
日本人の多くにはアルジェリアで起きた悲劇が衝撃だ。ミジンコにも衝撃だ。アルジェリアのテロ組織、ましてや自分も長いこと苦々しい思いで見ていたテロ組織が日本人の命を奪うなどとは悪夢だ。事件が起きてから各方面への情報提供で24時間以上起きてスマホを何台も持ち歩いている状態。アルジェリアという国への理解の深さに比例して今回のテロへ絶望することだろう。彼の地の政府も信用ならなければ、反政府的なテロ組織とは称しているものの結局は武器・人身売買や麻薬ビジネスという利権にも与っている犯罪組織が順序立てた交渉に応じる可能性を感じなかったからだ。ドラマや映画に登場するテロ組織はボスがいて組織のメンバーたちは上から下まで組織的に動くが、実際のイスラム過激派はテロ組織が分派に分派を繰り返して、横のつながりはあったとしても各組織それほど大局的な視点で活動しているとは言い難い。要は利権確保に必死なだけに過ぎない。今回のイスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ組織(AQMI)もそうだ。実際にはベルモフタール元幹部と日本の報道では呼ばれている男がAQMIからも離脱して少数の手下を引き連れての犯行だ。そういうわけで日本の報道は間違っているものが多い。正確には元アルカーイダ系の組織にいた者がつい先月(12月)組織からもその危険思想と犯罪ビジネスへ注力する姿勢を煙たがられて追い出されての逆ギレ暴走が今回のテロだ。アルカーイダからも見放されてどん詰まりになった挙句の凶行だ。深い考えや信念があってのことではない。だからこそあそこまで計画性のないテロだったのだ。
今回のテロ組織のリーダーは、日本の報道ではベルモフタール元幹部と呼ばれていることもよく見かけるがハレド・アブル・アッバスという名前の方で有名なテロリストだ。この男の存在がアルジェリアというよりもフランスなどの西側の国益に反するということで各国の諜報機関が追いに追っていたが一向に捕まらなかった。やっかいなのは、このハレド・アブル・アッバスは宗教的な信条よりもビジネス(犯罪)を優先させていた傾向があり、イスラム過激派の中でても異質で捉えどころが無いことだ。活動が犯罪組織の幹部のそれなのでイスラム原理主義よりも金銭的価値を優先していた傾向が強い。だからこそアルカーイダにも身の置き所が無くなったのだろう。
そのハレド・アブル・アッバスの闇商人としての傾向を考えれば今回のアルジェリア政府の無謀な爆撃は最低最悪の手段だった。逃走する車列を逃がすだけ逃がして後からの交渉も可能だったはずだ。それでもアルジェリア政府は解決を先延ばしにしてプラントの稼動停止を避ける方を選んだ。そういう政府なのだアルジェリア政府は。元々が軍が政権を奪ったままの延長戦できている政府だ。政府自体の正当性が非常に怪しいものなのだ。しかしながら、これもミジンコが言うところの「たられば」でしかない。失敗続きのフランスの特殊部隊ではおぼつかないが、米軍の特殊部隊ならば起爆スイッチを押す係を確実に狙撃したであろうから人質の犠牲をもっと食い止められたという見方が妥当だろう。しかしこれも「たられば」なのだ。アルジェリアに1度でも行ってみれば分かる。彼の地ではまともな思考で動いたところで物事がまともに動くとは限らない。
ネットでもアルジェリア政府を支持している声や山ほどの「たられば論」が書き込まれているがどれも正解ではなくどれも不正解でもない。アルジェリアやマリに行ってみれば分かる。彼の地で武装勢力に襲われないで過ごす完璧な手段など存在しないし、テロ組織から人質を救出する完璧な作戦もない。ハレド・アブル・アッバスが血盟団などという独立組織を立ち上げたという情報が先月これでもかっていうくらいに流れていたのにプラント施設の警備が甘かった点は批判されるべきだろう。僅か20名ほどのテロリストに数十人もの民間人(外国人)を拉致・拘束されていることは恐るべき油断だ。施設の警備員2名がその時に殺害されているがその人数からして全体の警備体制も察することができる。テロ組織が施設に侵入した際に激しい銃撃戦すらも起きていなかったのだろう。警備側が徹底抗戦できていれば軍が到着して人質は取られなかったやもしれない。ここでもアルジェリア政府のいい加減さが見て取れる。明らかにテロ組織の攻撃対象である施設に対しても大した警備も施しておらず、人質が取られてからの迅速な対応という名の虐殺だ。日本では馴染みが薄かったであろうアルジェリアという国の実情がこれだ。
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