つい最近、富士通の開発者がクレイ賞というスパコンのノーベル賞と称される賞を授賞。
富士通研・三浦フェローにシーモア・クレイ賞 日本人2人目(ITmedia NEWS)
IEEE(電気電子技術者学会)はこのほど、スーパーコンピュータ技術への貢献をたたえる「シーモア・クレイ賞」を富士通研究所フェローの三浦謙一氏に贈ることを決めた。ベクトル型スーパーコンピュータの基礎開発におけるリーダーシップが評価された。日本人の受賞は2人目。
三浦氏は1973年に富士通に入社し、同社のベクトル型スーパーコンピュータ「VPシリーズ」などのハードウェア・ソフトウェア開発に携わった。ベクトル化コンパイラがハードウェア機構をどのように効果的に利用できるかを示すなど、同社スーパーコンピュータの設計に大きく貢献した。2003~08年には、国立情報学研究所の「超高速コンピュータ網形成プロジェクト」(NAREGI)のプロジェクトリーダーを務めた。
三浦氏は「受賞は、富士通のこれまでのスーパーコンピュータ開発の成果に対するものであり、開発に携わったエンジニアを代表してわたしがいただいたものと受け止めております」とコメントしている。
同賞は世界で初めてベクトル型スーパーコンピュータを開発したクレイを記念し、IEEEが1997年に制定した。06年には、NECの「SX」シリーズや地球シミュレータの開発に貢献したNEC元支配人の渡辺貞氏が受賞している。渡辺氏は現在、理化学研究所と富士通が取り組む次世代スーパーコンピュータのプロジェクトリーダーを務めている。
つまり現在、日本のスパコン開発チームはかつてスパコン世界最速の座を獲得した地球シュミレーター(NEC)の開発者でありクレイ賞を受賞した渡辺貞氏や今回クレイ賞を受賞した三浦氏などが中心となって進められている。以前はNECと日立と富士通3社のシステムを採用して1つのスパコンを作るという無謀な計画だったが、今の日本のスパコン開発は期待できる。
話すと本当に際限なく長くなるのでここでは説明が難しいがベクトル型とスカラー型の混成スパコンは成功しなかったとミジンコは確信している。今の方が遥かに結果が出せそうなスパコン開発の布陣になった。あとは予算ということになる。
仕分け作業で「2番じゃダメなんでしょうか?」というスパコン史に残りそうな迷言が出たと同時期の三浦氏のクレイ賞授賞とは皮肉なものだ。
正直言ってミジンコも無知だった。なにが無知かっていうと、日本人はもっとスパコンに理解があるのかと思っていたこと。
自分がコンピューター・サイエンスを学んで、ずっと半導体産業に関わっており、CPUやコンピューティングのことが常に頭にあったものだから、どうも世間でも半導体製品というものはもっと身近なものなのだと思い込んでいた。実際はそういうわけでもないらしく、仕分け作業でのスパコンへの投資の是非について怒りその必要性を説く博士たちと、いまいちその博士たちの怒りがどこからくるものなのかピンときていない人々との温度差には驚きつつも、ミジンコも自分の認識の甘さが恥ずかしくなってきた。
例えばこのニュース↓
スパコン開発で「ゴードン・ベル賞」 長崎大助教ら受賞 「国内最速」安価で実現(西日本新聞)
一部抜粋:
長崎大工学部の浜田剛助教(35)のグループは26日、国内最速のスーパーコンピューターを開発し、米電気電子学会の「ゴードン・ベル賞」(価格性能部門)を受賞した、と発表した。同賞はスーパーコンピューター分野のノーベル賞といわれ、市販の画像処理装置(GPU)を使って安価に高速計算を実現したのが受賞理由。同部門の受賞は8年ぶりという。
(中略)
GPUを大量につなげられるプログラムの開発が成功のカギとなり、数百億円規模が必要とされる開発費用を3800万円に抑えたという。天体物理学などの複雑な計算での活用が見込まれる。
授賞自体は大変素晴らしいこと。それは本当にそう思う。
ただし、違うんだよなぁ・・・。記事に明らかな誤りがある。
この件を取り上げて鬼の首を獲ったかのごとく「ほら!たった3800万円で作れるじゃないか!仕分け人は正しい!」といった趣旨の発言までネットのそこかしこで見られ、ミジンコとしては“ここまでスパコンというものは日本人には遠くの存在だったのか”と絶望。
勿論、全ての日本人がそこまでスパコンへの理解が無いとは思わないが。
さて、この記事のどこが正確な表現ではないのだろうか?
ココ→
数百億円規模が必要とされる開発費用を3800万円に抑えたという。
そもそもゴードン・ベル賞がスパコンのノーベル賞ならば、先日、三浦氏が授賞したクレイ賞はどうなってしまうのか・・・・・。
GPUの開発費用を含めたら数百億円はかかる。そうでないからこその3800万円。
GPUの研究開発費に数百億とも数千億とも長年投資されてきた。そのGPUを沢山つなげる技術開発に成功したことは当然評価されるべき。だからこそのゴードン・ベル賞授賞。授賞理由にもちゃんと「
市販の画像処理装置(GPU)を使って安価に高速計算を実現した」とある。
だが、莫大な研究開発費をかけられた製品の開発費を含めないで単純に3800万円で完成したってのは妥当な表現ではない。
その3800万円スパコンを支えるGPUにどれだけのお金が今までかかったのか?ということ。そもそも、そのGPUに関わるパテントを保有できているわけでもなし。
別にこの長崎大工学部の研究を貶めるつもりはないが、GPUでどれだけ並列処理してもできる計算とできない計算がある。そもそもFLOPSが理論値である以上、行う計算によっては期待したほどの処理速度が出せない可能性がある。可能性というと遠まわし過ぎるか。はっきり言えば、今世界が欲しいスパコンとは趣旨が異なる。長崎大工学部がこのスパコンに使うGPUを作っているわけではないということを全く見ずに、スパコン・ランキングに載っている開発費数百億~数千億円のスパコンと比較して大騒ぎするネットユーザーには心底呆れる。この3800万円スパコンはソース元の記事には日本最速とあるがスパコン・ランキングには長崎大工学部という開発チーム名は見当たらない。当たり前といえば当たり前だ、GPUは市販のものを使っている。そういう扱いなのだ。
クレイ賞、ベクトル型、スカラー型、クラスタリングなどなど、余りにも自分にとっては身近な言葉。日本では余り浸透していないことがやっと分かった。
[4回]
PR