先に述べておきたいことは、29日にも開始されるという米英(おそらく仏も参加)軍によるシリアへの巡航ミサイル攻撃に反対ではないこと。理由はただひとつ。シリア政府のここ数年の市民への虐殺行為は止まる気配がまったく無く、神経ガスを使っての大量虐殺を止める手段が現シリア政府が倒れること以外に考えられないから。そしてシリア政府を倒すことは現状では反シリア政府軍だけでは困難を極め、シリアが泥沼の内戦を数十年は繰り返す可能性すらあり、その間に死亡するシリア国民の数は膨大な数に及ぶことは容易に想像できる。そもそも反シリア政府の勢力も1枚岩とも言えず、更にそもそも論になるがシリア政府と反シリア政府軍のどちらが正しいとか悪いといった単純な色分けは不可能なほどシリアは混沌としている。
本来は国連軍主導でシリアへのPKOを強行的にも行うべきところなのだが今の国連は本当に役立たず機関と化している。国連事務総長の潘基文は母国・韓国にて国連の活動とはまったく関係のない韓国PRに躍起になっている。これはいつものことなので誰も国連事務総長には期待していない。潘基文が国連事務総長になってから中東、アフリカ、欧州と地政学が崩壊した混乱が続いており、前国連事務総長のアナン氏が事態収拾に動いているという国連の機能破綻が起きている。つまり今はもう国連軍は機能しないと見ることが妥当だ。その観点からも批判が数多く出ているのも納得できるが米英軍くらいしかシリア政府の虐殺を止められないという半ば諦め気味の妥協案として近々開始されるであろう巡航ミサイルによるシリア政府軍への攻撃は支持している。
そりゃ特にアメリカが「武器の在庫処理」だとか「(北朝鮮には攻めないで)中東にしか介入しない」といった批判はもっともな意見だと思う。あからさまにアメリカはダブルスタンダードになる。アメリカが必ず正しいとは限らないというのにアメリカが世界の善と悪を決めている現状は確かにおかしい。例えばアメリカはイランをまるで世界の悪玉勢力の筆頭のように扱っているが、実際にはイランは中東の中でも屈指の理性的な国家であり、とても民主化が浸透している。イランの街中では大声で政治的な会話をしてもなにも起きない。イラン政府批判を含めてだ。むしろアメリカ軍批判を街中でしたら住民から袋叩きに遭うアメリカ社会の方が言論の自由が制限されている。
それでも巡航ミサイル発射に賛成なのだ。そういった軍事行動に反対する方が気楽なもので本当はそうしたいのだが、次の虐殺が起きる可能性がほぼ確実な現状とシリアの独裁者とその取り巻きたちの発狂しているとも思える数々の虐殺行為を止めるには他に方法が思いつかないからだ。はっきり言ってしまえば、その点で自分の人生を投げ出してシリア政府軍と刺し違えるくらいの覚悟が自分にあるのかと言えば「無い」から米英軍に任せてしまっているのだ。シリアにも何度も訪れたがあの軍事力と人の命を軽視した政府を知るに、確実に勝てる軍があるのならばすぐにもやって欲しかったというのが本当のところ。虐殺を止める術が思いつかないのに安易に虐殺を止める手段を批判するのは簡単ではあるが選びたくない選択肢だ。「戦争反対!」「アメリカがどうのこうの」と言うのはそりゃ楽なのだが、そんな議論を何年も続けていく内にシリアで何十万人殺されるのかと思うと、米英軍の軍事行動開始を発端とする先ず間違いなく起きるであろうシリア政府の倒壊が待ち遠しい気さえする。その過程でも多くの命が失われる。犠牲が分かっているのに反対しないことは苦しいが自分だけキレイでいようとする盲目的な反対は自分の人生の選択肢には有り得ない。ただ反対だけの人生が歩めるのならば人生を犠牲にして自分まで軍事訓練なんぞしないで金で雇った人たちに守ってもらうだけで生きていける。
イラクに大量破壊兵器は無かったが国連軍とは言いつつもほぼアメリカ軍がイラクに侵攻しフセイン政権を打倒した。その後のイラクは今に至るまで「まだ戦場」だ。ルート・アイリッシュという道路をご存知だろうか?日本でもよく映像で流れている道路だ。その道路はまさに死の道で待ち伏せ攻撃や自爆車両の特攻が日常的なものとなっている。その道路を走るときは舗装されていない部分でも高速道路のように猛スピードで走る。狙われないためだ。しかしスピードを出していると自爆車両と認識されてアメリカ軍にハチの巣にされるという、どっちの選択をしても命賭けという世界で一番危険な道と言われている。アメリカ軍が撤退してからは訪れたことがないが今はどうなっているのか気になっている。そんな地獄を作り出したのも元々はイラク戦争だ。国連軍のイラク侵攻のお題目は「大量破壊兵器をイラクは隠し持っている」だった。しかしながら、それは間違っていた。CIAやアメリカ国防総省が作り出した誤った情報をパウエル国務長官(当時)はイラクへの侵攻の理由として世界に向けて発表していた。理由そのものが間違いであったと判明したのはイラクが滅茶苦茶になった後のこと。フセイン政権は倒れ、父親よりも残虐性としては悪名高かった長男のウダイ・フセインは死亡。正義のようなことが行われた感は確かにあるものの、侵攻の大義名分であった「大量破壊兵器」がどこにも存在しなかったことにより、侵攻の正当性は吹き飛んだ。
今回の巡航ミサイルによる攻撃、支持している国はアメリカだけではないがどう見てもアメリカ主導だ。イラクでの過ちがあるからといってシリアを見逃すわけにはいかないという理屈は分かる。ただし!シリアは本当に神経ガスを使ったのか否か、確たる証拠をどの国も出していない。ミジンコだって状況からして99%シリアは神経ガスを使ったと見ている。それでもまるでイラクのときのように断定しつつも証拠を出さない先進国連合軍の姿勢はまるで過ちの繰り返しのようで見ていられない。結論(巡航ミサイル攻撃)には納得がいくのだが過程がどうしても納得がいかないというなんとももどかしい状況だ。
シリアが既に証拠隠滅をしているであろうから証拠を出せという議論が不毛だということも分かっちゃいる。電話の傍受で神経ガスの使用を証明とはあるがそれを理由に戦争開始とは驚異的に軽はずみな判断だと談じざるを得ない。それでも今のようなはじめに攻撃ありきで大国の軍事行動がスムーズに進むことが当たり前のようになっては世界が正しい方に向かっているとは到底思えない。救いはアメリカ国内でも今の時点、しかも国連の承認も得ていない現状での軍事行動には正当性がないという意見が続出しているところ。国連が頼りにならないどころか機能停止のような現状では承認云々を語るのは虚しい気もするがそれでもルールはルールだ。そこを曲げては国連の意味がない。
結論が正しいからといって結論に至るまでの手続きを全て無視する前例をこれ以上作るべきではない。シリアは確かに酷いことをやっている。いわゆるならず者国家というやつだ。しかしながら、そのならず者を倒すためには法律を無視して射殺すれば良いとする警察は果たして正しいだろうか?善良な市民からしてみれば頼りになる警察に思えるのかもしれないが、その銃口はどこに向くのかも定かではない上に安全装置は解除されっぱなしだとしたらどうだろう?しかもその警察は1度誤認捜査で主犯を射殺している。ノーベル平和賞受賞者のオバマ大統領は本当に平和を追求する気があるのだろうか?巡航ミサイル発射よりもシリアとアメリカとの首脳会談を強行的に行う方がよほど平和に近づける。シリアに負けると分かっている戦争を断念させることの方が、戦争後にイラク化やアフガン化するシリアへのつけられもしない後始末よりもずっと賢明な選択だ。巡航ミサイルを発射することには大賛成ではないが賛成。だが、この事態に至るまでの約1年、少しは武器を使わないで問題を解決するアメリカも見てみたいと願っていた。イラクの件を挙げてキレイ事だけ並べるのもラクな気は本当にする。それでもイラクの件を挙げつつも今回のシリアへの攻撃は賛成するという矛盾だらけの賛成を選びたい。
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