この数年、戦闘のプロたちを雇いまくっている。通常は専門のエージェンシーを通じてスカウティングをしているのだがその雇いたい人材がエージェンシーの活動範囲外の場所にいる際には自分の会社の人間が直接交渉している。そんなエージェンシーも行かないような場所になんで俺はいるんだ!?とそんな人として当然の疑問は常にあるが愚痴っていても誰も自分を安全なところには運んでくれない。最近では世界のどこにいても誰からも心配されず、妻からのメールでは免税店で買うべき化粧水の情報しか書かれていない。いいんだ、それで!そんな俺様に結婚の相談をしてくる若者たちが年に20組、いやそれ以上はいる。おまんら相談する相手が間違っているとですよ!
PMC(民間軍事会社)との契約が切れて更新していなかったり、解雇された者たちが治安の悪い地域には数多くいる。母国に帰らないまま次の契約先を探していたり、単純に現地で酒や麻薬をやりすぎて使い物にならなくなった最低最悪のクズヤロウたちだ。そんなクズヤロウたちがミジンコの大好物だ。どんなクズでも仕事を与えるとクズ一歩手前くらいまで持ち直す。しかもそんな元クズの方が2度と無いはずだった仕事を命をかけてやり遂げる。本当に馬鹿で常識がなく乱暴で酒やドラッグの誘惑に負けたクズヤロウたちだがPMCの仲間たちを家族のように捉え会社の事務所を我が家と称する。クズはクズでも頼りになるクズヤロウたちだ。
誰がスカウトに行っても門前払いを食らっていた人材が一人いた。元特殊部隊員で退役後に数社のPMCを渡り歩いていたが問題ばかりを起こしていつも契約解除を現地でされているというロクデナシだ。それでも腕が良いし経験豊富ということでそいつがフリーになるといくつものPMCがスカウトに動いていた。ところが本人は性格がひん曲がっているのでスカウトに赴いた人間を罵倒して追い返していたらしい。おまえ、仕事したいのかしたくないのかどっちやねん!ってツッコミ多数だった。
ミジンコの会社の人間も追い返されていた。一応、数分は会ったらしいのだが「本物のクソヤロウ」との人物評価だった。ミジンコも「じゃあ、いいや」と諦めていた。ところがそんなヤツに限って南スーダンの市場で接近遭遇。ミジンコと同行していたPMCの社員が見つけたのだがソイツだと教えてくれなくとも「うわっ!コイツはヤバい!」という外見だった。ブルース・ウィリスがダイハードでボロボロになった後の状態が普段着ということが見て取れたからだ。上下すべての服がボロボロなのにバンダナだけ新品同様。どういうこだわりなのか分からなかった。以後、ダイハードマンと呼ぶことにする。
ダメ元だと思ってミジンコが一人でその男に近づいて話しかけてみた。ダイハードマンは周囲をやたらと気にしていた。そして一言「おまえ凄いな。どこから狙われているのかまったく分からないぜ。」
え?(-_-;)
ダイハードマンいわく「自分に近づいてきた男たち(スカウトマンたち)は必ず周囲に即時対応、つまりダイハードマンが変な動きをしたときには射撃式のスタンガンやゴム弾、最悪の場合は実弾の入った銃を撃つために何人かが物陰から狙いを定めていたらしい。プロ相手にあんまり意味がないとはいえ、ボディーアーマーも防弾チョッキもしていない状態で俺のテリトリー(近接戦闘ですぐに殺せる範囲)に入ってきてその余裕はいったいなにを隠しているんだ?とのこと。
・・・・・自分がそこまで危険な状況になっていたとは聞いてビックリンコさんだったよ、セニョール!
「中国人か?カンフーマスターだから余裕なのか?ムカつくぜ。」とペッと地面にツバを吐かれた。
カンフー、なにそれおいしいのん?(=_=;)
地面にツバを吐かれるなんてこと人生初。なんという無礼者だ。その根性を叩き直してやる!とか思ってもジャンケンくらいしか勝てる気がしなかった。しかもこの緊急事態に後ろの我が社の社員たちも「やべぇ~~~」というオーラを隠そうともしていない。おまえらそれでも元特殊部隊員たちか!
「俺は中国人じゃない。日本のサムライだ。」とミジンコ。
「なに!?」といきなり顔がこわばるダイハードマン。馬鹿で良かった!
「本物のサムライは刀を持たない。なぜなら真のサムライは戦わないからだ!」と、とにかく戦闘回避をするための即席言い訳を繰り出すミジンコ。
「なっ!?」と動揺するダイハードマン。ホームラン級の馬鹿で良かった!
その後、ミジンコのPMCのことを伝えて「良かったらウチ来ない?」と訊いたら即決OKだった。金が尽きていて市場のものもまともに買えなかったらしい。ミジンコが目の前の串焼きを買って渡し、奢るからビール飲みに行こうぜと誘うと馬鹿、もといダイハードマンは快諾。その場で多少の現金を渡して仮契約完了、他社に取られないための判断だ。
ダイハードマンは最後まで周囲をミジンコの手の者たち、いわゆる忍者たちに囲まれていると疑っていた。ちょっとでもミジンコに手を出せば自分がナイフ(←手裏剣と言いたかったらしい)で蜂の巣になるのだと怖かったのだそうだ。その割にはおまえビールをガブガブ飲んで緊張感のカケラも無かったやないか!と思ったが・・・・・。ともかく馬鹿で良かった。ん?馬鹿を採用して良かったのだろうか?その後、ダイハードマンはミジンコのボディーガードをやっているんだけど、着グルミを自分も着たいと言っている唯一の理解者となっている。
[34回]
PR